「今、世界では大変なことが起きています。」と商品先物取引会社の営業マンから取引の勧誘の電話が来たのは3ヶ月前のことでした。電話の向こうはやけに騒々しく、本当に何かあったのでは?と思える様子でした。是非この好機に取引に参加し、儲けて欲しいとの話しでした。
一般投資家の参加で、社会問題化するトラブルが多く、世間ではマイナスイメージが強い商品先物取引。素人には怖くて手を出せない取引と知りつつも、「今がチャンスです!皆さん儲かっています!任せて下さい!」と自信たっぷりの執拗な勧誘に負け、少しの金額ならと欲に駆られ、軽い気持ちで取引を始めました。
取引を始めてから数日後、価格は上昇し、120万円の投資金は、今決済すると200万円に増えていると連絡がありました。もっと資金を増やせばもっと儲かると説明され、新たに60万円を追加して買うことにしました。
その後も値上がりは続き、元手の投資金180万円は2倍の360万円になったと連絡があり、前回の連絡と同様にもっと資金を増やして欲しいとの説明でした。
私はもうこれ以上自由にできる資金は無いと話すと、「まだまだ価格は上昇します!」「もっと儲けるために、儲けた資金を基にして買えるだけ買いなおしましょう!」と説明されました。
気を好くしている私は二つ返事で従うことにしました。今まで買っていたものを決済し、これまでの元手の180万円と利益の180万円の合計360万円分を買いなおしました。
取引を始めてから約一ヶ月。商品先物取引の知識が全く無かった私の180万円の元手が360万円に増えたのです。素人の私でもこんなに簡単に儲かるものなのかと、取引を始めた頃の不安はどこかに消え、360万円がその倍の720万円に増えるのもそう難しいことではないように思えました。
ところが、数日後、今までとは違う趣で営業マンから、価格が下がったために追証拠金が必要になったとの連絡がありました。何とか追証拠金の180万円を用意して欲しいと言うのです。価格は一時的に下がっただけで、すぐに回復するとの説明を受けました。
自分の自由になるお金ではなかったのですが、追証拠金の180万円を用意しました。
価格の下落はその後も続き、幾日もたたないのにまた更に追証拠金180万円の不足金が発生したと連絡がありました。

ふと我に返りよく考えてみました。最初の資金が120万円、追加で60万円、その後追証拠金で180万円の合計360万円。更に追証拠金が発生し、180万円が必要だというのです。
一時180万円の利益が出ていたのにあっという間に消えてしまい、元手の180万円も無くなってしまいました。ここ数日の間に360万円も損になったのです。
これまで、勧められるが儘に取引をしてきた私ですが、先物取引の怖さを初めて実感しました。 最初に勧誘の電話で「任せて下さい」と言っていた担当営業マンからはもう久しく連絡がありません。
今連絡をしてくるのは、その上司とやらで、長年のキャリアを持つ大ベテランと自負していました。

今回の追証拠金の180万円は金銭的に苦しい旨を伝えました。すると、もっと有効な手段があるとのこと。「これ以上、損を拡大させないようにする方法で、これ以上の追証拠金の心配は無い」高度な売買テクニック手法で、緊急避難措置[両建て]という方法だと説明されました。そんな旨い方法があるものかと疑って話を聞いてみると、やはりそれには更に両建ての資金が必要とのことでした。少し考えさせて欲しいと言うと、「両建ての資金は特別に待てるが、追証拠金180万円の不足金はすぐに必要」なのだと迫られました。
悩んだ末、これ以上追証拠金の心配が無くなり、何とか損をした分を取り戻したい一心で、両建てにすることを決め、お金の用意をすることにしました。
少しの金額ならと取引を始めたものの、今では仕事も手につかず、夜も眠れない程の大変な金額になってしまいました。
数日後、やっとの思いでお金を都合し入金すると、ベテラン営業マンは「大船に乗ったつもりで任せて下さい」と豪語していました。
名刺に書いてあった肩書きを信じ、大ベテランなら儲けさせてくれると信じ、それからも何度となく売買を繰り返してはいますが、ベテラン営業マンの説明は、理論や経験に裏付けられてもっともらしく聞こえる予想も、思惑通りに価格は動かず、私は徐々に「騙されているのでは?」と思うようになりました。
もう取引を止めたいと話すと営業マンは取引を継続させるため、大声であれこれと捲し立ててきます。
今思えば勧誘の電話があったあの日、この電話の向こうで聞こえた、騒々しく殺伐とした雰囲気は「世界で大変なことが起きた」のではなく、世界は世界でも、商品先物取引という世界を守るため繰り広げられていた攻撃(新規勧誘)と防御(取引継続)の砲弾戦(会話)だったのだと気がつきました。
あれから時は過ぎ、現在は商品先物とは無縁の生活を送っている筈の私でしたが・・・この失敗を教訓とし、何とか成功はできないだろうか?と思う気持ちが強くなったのです。「負け犬」では終わりたくない!と言えば格好良く聞こえますが、本音を言えば儲かった時の爽快感が忘れられず、すっかり商品先物取引の魅力に魅せられていました。
勿論、今は別な会社で取引をしています。今や基本を身に着け、自分流の投資スタンス研究の毎日ですが、何よりも今度の担当営業マン(アドバイザー)とはウマが合うのです。決して派手な取引ではなく、堅実且つ着実にどちらかと言えばコツコツと言った感じです。取引が順調に行くと「もっと、もっと」と気負う私を制してくれたり、不調の時は我慢の仕方を教えてくれます。それに素人の私の意見にも快く耳を傾けてくれるので勉強のしがいがあります。
お陰で楽しく先物取引を続けています。 |